霧の中の風景

霧の中の風景

今年観た映画から1本だけ選ぶなら,迷うことなくこれです。

テオ・アンゲロプロス監督『霧の中の風景』(1988年/ギリシャ・仏)

INO hidefumi LIVE SETのリリースツアー初日@六本木SUPER DELUXEへ向かう途中,すぐ近くのシネマート六本木で開催されていた「淀川長治生誕100年特別企画」。
1998年に亡くなった映画評論家の淀川長治氏生誕100年にちなみ,生前の講演会の映像をスクリーンで上映するという企画。ロンドンでの講演と早稲田大学での講演,どちらも素晴らしい内容。
「映画を頭で見たら,つまらないね。もっと感覚的に見てほしい」

講演の中で淀川氏が取り上げた諸作品を,そのあとすぐ上映するという憎い演出。
『旅芸人の記録』『永遠と一日』などで知られるギリシャのアンゲロプロス監督は,長回しを多用して台詞が極端に少ないことで知られている。個人的にとても難解なイメージを持っていたけれど,この作品にはすんなりと入り込むことができた。
幼い姉弟が,まだ見ぬ父に会うためアテネからドイツへ向かうロード・ムービー。
でも子どもだからドイツがどれだけ遠いのかも分からない。実は私生児のふたりに追い求める父親は存在しない。それなのに会いたがって行く。
淀川さんいわく「このふたりが辿る道が私たちの人生ですね」・・・この言葉は本当に深い。
突然降り注ぐ雪,海辺のダンスシーンの美しさ。そしてラストシーンで霧の中に浮かぶ父親を象徴するような大きな樹は様々な暗示に満ちていた。
エンドロールのあと僕はしばらくシートから立ち上がることができなかった。東京のど真ん中にいるのに,ひとりぼっちで世界の果てにいるような,でも同時に希望の「樹」に守られているような・・・そんな切なくて温かい気持ちになった。


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淀川さんの解説。
「この映画は理屈っぽく考えたり,意味を考えたらいけません。感覚で観てほしいのね。画面を目に沁み込ませれば,これからこの二人がどうなるかが,もっと強烈に伝わってくるででしょう。目の前に世間の怖さがありながら,この流れは夢の中のようなもの。これがこの監督の狙いです。アンゲロ美術,アンゲロ魔術に酔ってください」


4 Comments

yappyさんが紹介されている映画や音楽はいつもステキです。ありがとうございます。わたしも急いで録画しました。今夜見るのがたのしみです。先日のライブも感動しました。もう一週間たつのですね。まだ頭のなかにピアノの音が残っています。

>miuさん
こちらこそありがとうございます。
『霧の中…』は平日の午前中に映画館で観たのですが,お客さんも少なくてハコごと世界の果てへ流されていくように感じました。放送で観て再び泣きました。
indigo jam unitのライブ凄かったですね。僕もいまだにメロディが体中を駆けめぐっています!

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