8月は忙しくて休みが取れなかったので,9月に入って強制的に夏休み。
遠出もせず久しぶりに自分の部屋でゆっくりと映画三昧。
夏の終わりに読み返した村上春樹『風の歌を聴け』のラスト・・・
「僕と妻はサム・ペキンパーの映画がくるたびに映画館に行き,帰りには日比谷公園でビールを二本ずつ飲み,鳩にポップコーンをまいてやる。
サム・ペキンパーの映画の中では僕は『ガルシアの首』が気に入っているし、彼女は『コンボイ』が最高だと言う。
ペキンパー以外の映画では,僕は『灰とダイヤモンド』が好きだし,彼女は『尼僧ヨアンナ』が好きだ。
長く暮らしていると趣味でさえ似てくるのかもしれない」
NHK-BSが特集していたポーランドの映画監督アンジェイ・ワイダの作品をまとめて観た。
『地下水道』(’57年)『灰とダイヤモンド』(’58年)『大理石の男』(’77年)・・・
どれも素晴らしいけれど,やっぱり『灰とダイヤモンド』!
完全にココロを撃ち抜かれてしまった。
第二次大戦末期のポーランドで反ソ連の暗殺者となる青年の物語。
テロと平凡な人間としての愛の狭間に迷い,街はずれのゴミ捨て場で無惨に死んでいく。
60年安保前夜,日本の若者に与えた衝撃はきっと強烈だったんだろうな。
一夜のうちに起こる出来事をクールな視点で描いている点で
ルイ・マル『死刑台のエレベーター』や村上春樹『アフターダーク』とも似ている。
ウォッカグラスに灯される弔いの火。ベッドの上で互いの顔を這う手。
逆さ吊りになったキリスト像。暗殺シーンで背後に打ち上がる花火。
愁いを帯びたモノクロームの映像。光と影が本当に美しい。
そして交わされる会話。
「来ると思った?」
「ああ」
「なぜ来たと思う?簡単よ。恋にならないから」
「恋は嫌?」
「あなたと?」
「一般的に」
「避けたいわ」
「主義?」
「面倒だもの」
「人生は面倒だ」
「だからこそよ」
「兄弟は?」
「幸い いないわ」
「幸い?」
「失くさずにすむ」
・・・このセリフはハルキ氏も引用してますね。
映画の前にはワイダ監督のインタビューも放映された。
ソビエト影響下の検閲をくぐり抜けこの映画を撮った執念が伝わってくる。
「私が描きたかったのは善と悪の対立ではない。
本当の悲劇は善と善が戦ったときに起こるのです」
深い。
戦争の影を帯びた愛の物語としてはリリアーナ・カヴァーニ『愛の嵐』も大好き。
秋の夜長,映画漬けの日々が続きそうです。